卵巣に「チョコレート嚢胞(のうほう)」がある、あるいは「血液貯留がある」と指摘されたことがある女性は多いと思います。
■チョコレート嚢胞は子宮内膜症の一種
卵巣チョコレート嚢胞とは広い意味で「卵巣嚢腫(のうしゅ)」の一種です。卵巣嚢腫とは卵巣の中に液体が貯留した状態のことです。貯留物は、水に近い成分や粘液、血液、脂肪のような成分の場合などいろいろな種類があり、時にはがん細胞が見つかることもあります。卵巣チョコレート嚢胞は子宮内膜症により卵巣の中に血液が貯まっている病巣で、古い血液がチョコレート色に見えるのでこの名があります。
■世界的に増加傾向の子宮内膜症
子宮内膜症はイメージしにくい病気だと思います。本来、「子宮内膜組織」とは子宮の内腔の壁を形成している粘膜で、受精卵が着床して発育する場所であり、月経時には出血とともにはがれ落ちます。これと同様の組織が、本来あるべきでないところ(子宮筋層内、卵巣・卵管の中や周囲など)に紛れ込んで炎症を起こしている異常な状態を、「子宮内膜症」といいます。
このような病巣では、月経のたびに出口のない出血が繰り返され炎症や癒着を起こし、月経痛、腹腔内癒着による痛み、卵管の閉塞による不妊などを引き起こします。原因は不明ですが、晩婚化・少子化などにより一人の女性が経験する月経回数の増加の影響とする説もあります。
■不妊症と密接に関連
子宮内膜症の小さな病変は診断するのが困難で、ほとんど見逃されているのが現状です。不妊の原因が特定できないケースで、精密検査のために腹腔鏡検査(腹腔内に内視鏡を挿入して調べる検査)を受けた女性の半数近くに子宮内膜症が発見されるという報告もあり、小さな病変でも病巣から分泌される物質が受精を妨害するなど、さまざまな形で妊娠を邪魔する厄介な病気とされています。このように子宮内膜症は、女性の不妊原因で最も重要なものの一つです。
■病変が見つかれば難治性不妊の可能性も
卵巣チョコレート嚢胞は子宮内膜症の最も発見されやすい病変であり、見つかればその周囲に超音波検査でも見えないような小さな病変が広く存在していると考えられ、すでに妊娠しにくい状態となっている可能性が高いといえます。そのような場合、通常の性交渉や人工授精(濃縮精子の子宮内注入)で妊娠に至らないケースも多いため、手術療法や体外受精などの積極的治療が最終的に必要かもしれないことを念頭に置いておくのが良いと思います。
2014-05-28 19:38:36
コラム